-第三話-【クラフトビールを求めて】シドニーで過ごしたビールのある生活

シドニー

シドニーで過ごしたビールのある生活の三話目。
ブルワリーホッピングと僕自身のワーキングホリデーでの日々のエッセイ。


第二話を書き上げたころは新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威をふるっており、まだ先が長くなりそうだなと思っていましたが、この第三話を書き始めたらロシアとウクライナ情勢の緊迫が高まり、ついに侵攻へと状況が悪化。

生まれてから、リアルタイムで目にしてきたこれまでの戦争とは違い、ロシアが直接大掛かりな軍事侵攻をしている戦争。


おいおい何をしているんだよ、最初のニュースを聞いた時には、なぜ…、何をしているんだ…という疑問と怒りが混ざった何とも言い難い感情がこみあげてきました。
日本という治安のいい国で生まれ育ち平和な環境にいるからそんなことが言えるのだろうと言われれば、確かにそれまでかもしれませんが、何ともやきもきした気持ちになります。

世界を取り巻く環境は目まぐるしく変わっており、当たり前の日々がいかに貴重なもので同時に脆いのかというのを日々考えさせられ、僕が過ごした当たり前だったけど貴重な時間をここにエッセイとして記録することはなんだか前よりも増して意味があるように感じています。

さて、第三話はシドニーのMarrickvilleという地区にある The Grifter Brewing を訪れた時の話。

今は一日も早く武器を置いて過ごせる日常が戻るのを願って。


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The Grifter Brewing Co.







2019年11月に渡豪することを決めてから、何とかブルワリーに関わる仕事がしたくて、Googleでシドニーのブルワリーを検索してMAPにピンを立てていた。
10月に語学留学で訪れていたフィリピンから一時帰国後、検索したブルワリーへ片っ端からレジュメをメールで送り、お願いします、誰か連絡ください、と期待しながら渡豪までの一カ月を過ごしていた。


結局ブルワリーからは来てほしいというリプライはなかったんだけど、こっちにきたら飲みに来なよ、っていう返信をいくつも頂いたのがうれしかったっけ。その中でビールに関わる飲食店での面接が決まり、渡豪後二週間目から仕事を始める事ができた、奇跡的に。

今考えれば、なかなかに無謀な職の探し方だったなと思うが、きっとあのわずか4カ月という短い期間であれだけ充実した時間を過ごすことはできたのはそのおかげだった。

職探しでブルワリーを調べているときに驚いたのが、シドニーの市内にものすごい数のブルワリーがあったこと。旅することが好きと言いながら、実は長野県から出て暮らしたのはフィリピン留学が初めてで、長野県から出たことがなかった僕にとってはこんなにバラエティに富んだブルワリーが密集している場所で暮らせるというのは夢のようなことだった。特に密集している地区があって、そこが何を隠そうこのThe Grifter Brewing Co.があるMarrickvilleという地区。
徒歩圏内に5~6も醸造所があるものだからやっぱりビールはオージーにとってデイリーな飲み物なんだろう。後にfermentis(酵母のサプライヤー)のセミナーで聞いた話だと、オーストラリアで一番ブルワリーが密集している地区とのことだった。


そりゃそうだよね、徒歩数分の場所に何件もビール屋があって成り立つ地域なんていくらビール好きな国民といえどそんなにあるもんじゃないよね。

そして、幸いなことにMarrickvilleも当時住んでいた場所からは近かったんですこれが。

部屋を探しているときは考える余裕もなかったんだけど、最初に住んだ場所はブルワリー巡りをするのにはとてもいい場所でした。ユニークな店と若者が集まりニューウェーヴな街となっているNewtown、そしてブルワリー密集地区のMarrickville、空港まではUberですぐ、そしてCBDへも電車ですぐに出ていけるという素晴らしい立地の場所でした。



お隣のヒップな街 New Town





そのMarrickvilleにあるブルワリーの一つが The Grifter Brewing Co.。

渡豪後一カ月経過してからようやくブルワリーをめぐる余裕が出てきたので、クリスマスの日にサイクリングをしながらマリックビル周辺をうろついてみる。地図やSNSで見ている景色へ実際に足を運んでみるとやはり雰囲気やサイズ感などリアルでなければわからない事が多い。色々な発見があったんだけど、この日(クリスマス)はどこも休みだった。


Grifterは一番最初にサイクリングで立ち寄った場所、クローズしてたんだけど、横の建物に黒い犬が顔をだしてこっちを見ていた。まるで今日は休みだよ、って言っているようだった。


犬を眺めていたらおじいさんが横の建物から出てきたからちょっとだけ立ち話を、何を言われるかと思ったら「クリスマスの日にクローズしてるブルワリーなんか来てないで、奥さんの為に何かしてあげなよ」というようなことを言われちゃった。
この日はサイクリングに妻を付き合わせていたのでおじいさんのいう通りではあるのだけれど、それはこっちの好きにさせてもらいますよ。なんて思ったっけな。




警備員のようなベストを着て顔を出してきた犬





日を改めて訪れました。
倉庫のような建物のシャッターが入口となっている。この間来たときは気づかなかったけど、思っていたよりも奥に広い空間が広がっているのが見える。少し長いスロープを降りていくと奥にはタップルームと醸造所が広がっていた。薄暗く隠れ家の様な空間。

まるで古き良きアメリカ(その時代を生きていたわけではありませんが。)を思わせるインテリアやデザイン。
バーやホテルのコースターのコレクション、そして大量生産ではないであろう面持ちの銀食器のコレクションが額装され、他では見かけないユニークなディスプレイとなっている。
スケートの板も壁に馴染んで飾られていたりと、どれをとっても心をくすぐるかっこいいディスプレイ。ずるい。


雰囲気というものはすごく大事で、自分の好みの空間であるかどうかというのは飲んだ時の味わいに結構影響します。どんなにビールが期待してた味わいを下回っても、空間がかっこよければ気分はそこまで落ちない。色んな考え方はあるかと思いますが、お酒を飲む時ってお酒そのものの味はもちろん大事なのですが、同じくらいの要素としてその場の雰囲気や、誰と一緒に飲むか、その時の自分の感情、そんな要素も味わいに大きく影響を与えると思います。造り手の方にはこんなと言ったら怒られるかもしれませんが、やっぱりビールそのもの以外にも味を左右する要素はあるなと。


だからこそ、Grifterの作り出している空間でのビールを楽しんだ時間はより一層素敵なものに。


最初のオーダー、目を輝かせながらカウンターへと向かう。

入ってからすぐ目についてるのですが、バーカウンター後ろのタイル張りの壁から突き出ているタップとオレンジの背景に黒の配色のメニューボードがたまらなくいかしている。

いつも通り、” hey how are you?” から始まる注文。

この国だどどこへ行ってもスタッフはきつきつせず余裕をもって接客してくれるから、忙しいとせかせかしてしまいがちな日本のスタンダードな接客とは違って居心地がいい。日本のサービス業は体系化されすぎていてちょっと窮屈に感じる事が多々あります。
もちろん急いでほしいときは、おいおい頼むよ、なんて思っちゃったりもするんですが。
滞在わずか数か月での生活はまだまだ何かと旅行者の感覚で、隣の芝生は青く見えるではないですが、色々な面でうらやましく思うことが多々あったっけ。
どちらが良い悪いではなく、良い悪いと感じるのはあくまで自分の感覚であって、結局はどちらが自分にとって居心地がいいかということに尽きます。

そんな面倒な思考を巡らせていても、ビールは色々と飲みたいのでponyサイズ(200ml)でオーダーを始める。
ここもまた12tapもあるもんだから、いつも通りすこしずつちびちびといろんなのを飲んでいきます。生憎テイスティングパドルはないけどponyサイズがあるから色々飲めるんですよね。



デザイン・配色・ネオンがクール





まずはスタウト – OMEN OATMEAL STOUT。

ビールをそんなに飲まない人からするとオートミールのスタウトってどんなものか想像つかないですよね。でもオートミールスタウトといえばビール界隈ではポピュラーなスタウト。原料にオーツ麦を使用したスタウトでやや甘味があり、英国のサミュエルスミスのスタウトが有名です。とてもふくよかでなめらか、そしてローストモルトの香ばしい香りがいいんですよね。甘味はそこまで感じませんでしたが美味しい。

一杯目をひっかけながら、やはり何か食べたくなるのでフードを注文。注文といいながら、このTap roomではフード提供がないんですよね、その代わり近所のピザ屋のデリバリーを紹介してくれてます。自分で電話して支払いも自分でやってね、という究極のアウトソーシングスタイル。ピザ屋は、近所の “Epic Pizza”。名前からして良さそうでしょう。Epicなんていうんだから素晴らしいに違いない。自信に満ち溢れた名前はいいよね。

電話で緊張しながらもなんとかオーダーを済ませ、緊張をほぐすようにビールを飲む。ピザは二十分くらいで到着、日本でよく見かける三輪のピザ屋のバイクでピザ屋のバイクでデリバリーみたいなのを想像していたのですが、uber eatsでした。少し拍子抜けしましたが、トラブルはそこから。配達員へ支払いをするんですが、カードでの支払いができないとの事、デリバリーに来たのはお店のスタッフではないuber eatsの配達員なもんだから、払えないと言われても困るといって一歩も引かない。困ったもんだなぁ…とやむを得ずピザ屋さんへ直接電話。ここ出たら直接そっちにむかってお店で会計するから、それでいいですか?と伝えると意外にもすんなり快諾してくれて一件落着。よかった。配達の兄さん、ちょっとご機嫌斜めだったけど、安心して帰っていきました。申し訳ないですね。でもキャッシュレスの進んでいるオーストラリアではカード使えなかったことなんてめったになかったんだけどなぁ。

ピデリバリーのピザはスタンダードなペペロニを。ビールの二杯目は定番のPale Ale。たっぷりのヘッド-泡を少しなめる、苦味とともに柑橘のいい香りが広がる。アロマホップ – 香りづけのホップにはGALAXYを使っている。GALAXYと言えばオーストラリアで開発された品種、まさにオージーのビア。爽快な飲み口と広がる華やかな香りは辛みのあるペペロニピザとよくあう。しかし、いざペールエールを飲み始めるとponyグラスだったので一瞬で飲み干してしまいました。




美味しさのあまりブレています – ペペロニピッツァ





お次はPINK LEMONADE SOUR BEERを。

いわゆる酸っぱいビールなんですが、ラズベリーとレモネードを醸造に使っているビール。基本的にビールの苦さが苦手な妻はこちらが好みだったようで、するすると飲んでいました。酸っぱくて、レモネードの甘さも持ち合わせている、こういう切り口のビールがあるのもタップルームならではの楽しみですんね。

あとはねここで絶対外せないのがWATERMELON PILSNER。

今度はスイカとビールですか、と思う方も多いかもしれませんが、オーストラリアでは結構頻繁に見かけるんですね。ベトナムにも結構あったかな。ここのはなかなかにスイカが存在感を出していて、香りが心地いい夏のビールなんです。スイカとか瓜が苦手な人はだめかもね。でも僕は結構好きで、近所のボトルショップで何回か購入して飲みました。

ちなみにタップルームでは提供しておりませんでしたが、夏の時期にはキューカンバー(きゅうり)を使ったビールってのもありましたよ。一度ボトルショップで見かけて購入しましたが、感想はひとことでいうとキュウリそのものでした。どうしてキュウリを使おうと思ったのでしょうかね、一回飲んだら十分に満足しました、みなさんもみかけたら是非どんなものか試してみてください。野菜の味わいだから健康的。なんてね。


美味いビール、素晴らしい空間、そしてエピックなピザを食べて大変満足して足取り軽く、また近いうちに来ますよ、と思いながらタップルームを後にしたのでした。でも、足取りが軽かったのは出るまで。いうまでもなく、そのあと遠回りしてピザ屋によってピザ代をカードで支払いしてほろ酔いで歩いて家に帰りました。

よく覚えてないんだけど、この日の帰り道は妻と喧嘩して心地良く酔っていたのに酔いも吹き飛んで、二人険悪なムードで歩いて帰ったのでした。

今振り返ってみると面白い一日だった。こんな日があるからこそ人生は楽しい。
さてシドニーで過ごしたビールのある生活、第三話 The Grifter Brewing Co. 訪問はここまで。



ウクライナではブルワリーが火炎瓶を作っていましたが、一日も早く普通にビールの醸造ができる日を願い。




Marrickville地区周辺地図


The Grifter Brewing Co. – Snaps of the brewery

額装されたコースターコレクション
ponyグラスで頂くビール
エントランス
夜のタップルームは良い雰囲気
人目を惹く入口のウォールアート
ビリヤード台とインテリア

Yasinski – YouTube Channel – Brewery hopping

実際に訪れた時の様子をYouTubeにアップしています


ワーキングホリデーで過ごしたシドニーでビールのあるの生活のエッセイ。
バックナンバーは下記リンクからどうぞ。

第二話:Rocks Brewing Co.

第一話:ONE DROP BREWING Co.

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